2018.03.05 Monday 17:14

改革の本丸

 安倍政権の目玉政策である働き方改革から裁量労働制を取り下げることになった。ずさんなデータに基づく効果不明の政策に対する世論の怒りは無力ではなかった。この際、働き方改革一括法を分解し、高度プロフェッショナル制度や労働時間上限規制など性格の異なる法案は別個に審議すべきである。
 そもそも働き方改革の本質は、経済界の長年の悲願である脱時間給制を目指す点にある。政府は、法案は労使代表等からなる労働政策審議会で了承されたというが、それは法案作成の最終段階の話である。基本的な中身は経営者と学識者だけが参加する未来投資会議で先取り的に決められていた。働き方改革には働く側の言い分は反映されていない。
 折しも、川崎重工業が新幹線の台車製造で多くの不良品を出していたことが発覚した。福島第一原発事故について東京電力幹部の刑事責任を問う裁判では、東電関連会社の技術者が東電から津波の予測値を引き下げるよう依頼されたと証言した。日本の産業の土台が腐食していることを物語る出来事である。
 大企業の経営者は、従業員の働かせ方を自分たちの都合のよいように変えることに血道を上げるのではなく、自分たちの仕事の仕方を厳しく点検、改善すべきである。日本経済の衰弱は労働者のせいではない。

東京新聞3月4日

2018.02.27 Tuesday 17:12

反日狩りの時代


 先日、赤報隊事件を発掘するNHKスペシャルを見た。1つ気になったのは、反日という言葉である。これは昔、極左過激派が自称していた。日本の問題点を批判する自由な言論に対してこの言葉を当てはめたのは、赤報隊が始めだった。そして、あの事件から30年たって、小学館の雑誌や産経新聞も右派の政治家も頻繁に使うようになった。
 今、反日という言葉を使う人々は、赤報隊と同じく、日本を批判する者には暴力をふるってもよいと考えているのだろうか。もちろん、そんなことはないだろう。しかし、反日征伐の名のもとに暴力をふるっている者にはっきりした非難をあげないなら、暴力を黙認していることになる。
 朝鮮総連の建物に右翼活動家が銃撃を加え、逮捕された。犯人は韓国・朝鮮人に対するヘイトデモでも活発に行動し、その世界では有名だった。この種の活動家の大半は自民党と安倍政権を支持している。安倍首相は、暴力を肯定するヘイト運動をどう思っているのか。自由と民主主義を擁護する政治家として名誉を保ちたいなら、暴力と差別を断固否定する具体的な発言をすべきである。「大阪には北朝鮮の工作員が大勢いる」と発言したエセ国際政治学者が産経新聞から賞をもらった時にエールを送っているのを見ると、そんな覚悟があるとは思えないが。

東京新聞2月25日

2018.02.18 Sunday 17:12

まやかしの政治


 平昌オリンピックで最も恩恵を受けているのは、安倍晋三首相だろう。日本勢の活躍もあって、テレビのニュースはオリンピック関連の情報に大きな時間を割いている。そうなると、政治の動きに関するニュースはどうしても手薄になる。
 オリンピックの陰で、日本の国会ではとんでもないことが次々と起こっている。政府は「働き方改革」の柱として裁量労働制の拡大を内容とする法改正を準備している。それを正当化するための根拠として、裁量労働制の下で働く人の方が、始業・終業時間を定めた働き方をする人よりも労働時間が短いと安倍首相が述べた。研究者が不審に思い、野党が国会で追及した結果、そのようなデータは存在しないことが明らかとなり、首相は答弁の撤回に追い込まれた。
 オリンピックがなければ、これは新聞の1面に載る大ニュースである。この通常国会の最大目玉法案について、首相が架空の数字を使って売り込みを図ったのである。朝日新聞の捏造体質はけしからんと国会審議で攻撃を加えた安倍首相は、自分自身の捏造についてどう責任を取るのだろうか。答弁資料を用意した役人が悪いと言い逃れをするのかもしれないが、捏造に踊らされた政治指導者は、悪意はなくても、愚かである。働き方改革については、一度出直すべきである。

東京新聞2月18日

2018.02.12 Monday 17:09

腐敗という疫病

 通常国会序盤の与野党論戦について、憲法や政治学の気鋭の学者に論評させるという記事が他紙に連載された。その中で日本政治史の学者が、今の野党はスキャンダル追及に偏りすぎだが、安倍首相が感情的になるのも問題と書いていた。
この種の相対主義は問題の本質を覆い隠す。野党が疑惑の追及をやめられないのは、政権が情報公開を拒否し、誠実な答弁をしないからである。根本の問題を見誤ってはならない。
 権力者の腐敗は、国を蝕む疫病である。英米の行動科学研究者が、23か国、2500人余りの若者を対象とした実験を行った。2回サイコロを振り、1回目に出た数に比例して賞金がもらえる。しかし、6が出たら賞金はゼロで、2回目の数字は賞金に無関係である。結果はすべて自己申告であり、嘘をついて高い賞金をもらうことも可能である。すると、独裁者が腐敗政治を継続している国の人々の申告値の平均は、西欧諸国の人々のそれよりも高いことが明らかとなった。
 権力者による政治の私物化が当たり前となれば、国民の方もごまかし、インチキを当たり前と思うようになる。近代社会は人間が正直であることを前提に成り立っているので、一般人が不正直になれば、社会運営のコストは上昇する。
安倍政権の腐敗と野党の追及についてどっちもどっちなどと利いた風なことを言っている場合ではない。為政者の公私混同は社会を内側から腐らせる大罪である。

東京新聞2月11日

2018.02.05 Monday 17:20

シビリアン・コントロール

 陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」に搭載予定の新型迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」の迎撃実験が2年連続で失敗したという記事を読んだ。この迎撃システムは北朝鮮のミサイルの脅威から日本を守るために必要だと政府が主張して、導入を決めたものである。これに限らず、長距離巡航ミサイルや護衛艦の事実上の空母への転用など、北朝鮮の脅威を奇貨とした防衛装備の拡張が続いている。
 一連の軍拡は憲法の専守防衛原則を崩すものだと私は考える。憲法上の論点だけでなく、本当に日本の防衛に役立つのかどうか、費用と効果を吟味する必要がある。軍事ジャーナリストの田岡俊次氏は、「ミサイル防衛に当たる4隻のイージス艦は各8発の迎撃用ミサイル「SM3」しか搭載しておらず、仮に全弾が命中したとしても最大8目標にしか対処できない」と指摘している。また、巡航ミサイルで敵基地を先制攻撃しても、すべてを破壊することは不可能で、反撃を招くだけだ。
 米国の武器産業のために高価な装備を買い込み、それが国民を欺く気休めでしかないならば、何のための防衛政策なのか。納税者・国民を代表する国会議員は、シビリアンとしての気概を持って防衛予算を検証し、真に国民を守るための政策を論じてほしい。

東京新聞2月4日

2018.01.28 Sunday 17:20

野党の結集

 通常国会が始まり、安倍一強体制に挑戦すべき野党の側は、統合、協力の在り方をめぐって混迷を続けている。希望の党と民進党の統一会派の構想が頓挫したことは、政党政治の筋論に照らせばむしろ当然である。
希望の党には、自民党右派と同じような考えを持つ改憲派がいる一方で、同党の玉木代表は憲法9条改正には反対すると明言した。憲法という最も重要な政治的価値観に関して一致できないというのでは、政党の体をなしていない。もちろん当人たちもこの問題は深刻視しているようで、執行部は小池百合子氏に離党を促し、改憲に積極的な保守派とは分党を検討するという報道もある。希望の党は不幸な生い立ちの政党であり、ここで新しい政党に生まれ変わるというのであれば、野党の整理は一歩進む。
立憲民主党は、野党を大きくすること自体を目的にすれば、かつての民主党の轍を踏むと警戒している。今は少数でもこれから明確な政権構想を樹立し、主体的に成長していくという志は良い。ただし、安倍政権が改憲を進めようという切迫した事態の中、憲法に関する理念を共有する政党が協力を密にすることも必要である。
統一会派や党の合併といった形にこだわる必要はない。労働法制改悪や、その後に続く改憲に対して戦うという中身を野党協力で作っていってほしい。

東京新聞1月28日

2018.01.21 Sunday 17:16

独立した良心


 リトアニアを訪問した安倍首相は、第2次世界大戦中、ナチスドイツに迫害され、外国に逃げようとしたユダヤ人にビザを発給した杉原千畝、駐リトアニア公使(当時)を日本の誇りと称賛した。そのこと自体には同感である。問題は、杉原の功績を現代日本にどのように生かすかである。
 当時、ドイツと同盟国だった日本はユダヤ人保護には否定的だった。杉原は外務省の訓令を無視して、個人としての良心からビザを発給し続けた。上意下達を旨とする官僚主義の対極にある人物だったからこそ、危険を冒してまでユダヤ人を助けたのである。この問題は現代社会の大きな宿題である。杉原のような良心的人物の対極には、自分の思考を放棄して、非人道的な命令に唯々諾々と従うアイヒマン(ホロコーストに加担したナチス親衛隊将校)もいた。
 日本外務省は長い間杉原を冷遇した。いまなお権力者の顔色をうかがうアイヒマン型官僚が跋扈する現代日本においてこそ、杉原精神が必要である。首相が杉原をそこまで称賛するなら、公務員研修や学校教育で、組織の規律は遵守する一方で、正義、人道に関わる問題についてはしばしば個人としての判断で命令を破ることも必要だと教えるべきである。それは、今の日本政治の方向を180度転換することを意味する。

東京新聞1月21日

追記
現代版の杉原ともいうべき文科省の前川氏は人格攻撃のデマを流され、読売新聞がそれを垂れ流した。現代版のアイヒマンたる佐川国税庁長官は政権が全力でかばう。安倍首相の言葉の軽さは、ここでも表れている。

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