2019.04.11 Thursday 17:32

あれから8年


 また311が来る。記録改ざん、データ捏造が横行する安倍政治の下では、過去の教訓に学べと叫んでも空しいばかりである。しかし、過去の失敗を無視して、原発をベースロード電源と位置づけ、再稼働に狂奔する安倍政権の政策は、亡国への道だと言い続けるしかない。
 エネルギー転換といえば、1960年代に石炭から石油へという大転換が起こった。その過程で、福岡県の三池炭鉱の労働者は人員整理に反対し、戦後最大の争議を起こした。当時真剣に戦った人々には申し訳ないが、これは時代の流れに逆らう無謀な戦いで、敗北を運命づけられていた。階級闘争のイデオロギーではエネルギー転換に勝てなかった。
 いま、あの時の労働組合と同じことを政府が行っている。階級闘争のイデオロギーに代わって、原発産業に絡む利権を守りたいという欲望に駆られた官僚、経営者、政治家が時代の流れを無視して、高コストの原発にしがみついている。
炭鉱閉山の時と違って権力の側が時代に背を向けて亡国の道を走る時、それを止めるのは民主主義の仕組みと市民のエネルギーしかない。あれだけの事故を起こしながら何も変わらなかった日本の記録が百年後の博物館に陳列され、嘲笑されるのは耐え難い。今を生きている日本人の知力と意志が問われている。

東京新聞3月10日

2019.04.11 Thursday 17:31

沖縄の民主主義


 沖縄県民投票では、辺野古基地建設に対する圧倒的な反対の意思が表明された。これに対して、安倍政権とその意を体した全国メディアは、この民意を矮小化するために見苦しい努力を払っている。
 NHKやいくつかの新聞は、住民投票の結果についてなぜか突然絶対得票率を使って反対派が県民全体の中での少数派であることを浮き彫りにしようとした。最低投票率が規定されていない選挙では、棄権者はカウントしないのがルールである。全有権者中の一部の意思だなどと言い出したら、安倍政権だって正統性がないことになる。
 岩屋防衛大臣は、沖縄には沖縄の、国には国の民主主義があり、辺野古基地建設は進めると述べた。選挙で勝利した安倍政権が進めている政策だからといって、民主主義の仕組みを経たと胸を張って言えるのか。行政不服審査を使って県知事の埋め立て許可撤回を無効にするという姑息な手を使い、技術的な可能性、予算の膨張など当然の疑問に対しても何ら説明はないままである。
 建設賛成の人も含めて過半数の沖縄県民が投票に参加して県民投票に正統性を与えたことは、沖縄県民が民主主義を大事にしていることの現れである。国政の指導者は、真摯に受け止めると虚言を並べるだけで、民主主義を蔑視している。

東京新聞 3月3日

2019.02.22 Friday 19:00

支持率の怪


 通常国会では予算委員会の論戦が始まり、毎日、安倍政権の失態がこれでもかと明るみに出ている。野党議員との論戦における安倍首相の逆切れ、はぐらかしを見ていると、こんな人物が我が国の最高指導者を務めていることに、絶望的な気分になる。
 しかし、一連の不祥事は政権に対する信頼を低下させているわけではない。2月のNHKの世論調査では、内閣支持率は微増して、44%となった。NHKといえども世論調査のデータ捏造はしないだろう。我々はこの現実を受け入れなければならない。個々の政策問題については、安倍政権のやり方を是認する声が多数派というわけではない。景気回復を実感せず、行政の不正に怒る普通の人が、それでもこの政権を支持するのはなぜか。
 内閣府が毎年行っている社会意識調査を見ると、2011、12年あたりを境に、日本社会の現状に対する満足感は高まり、中国や韓国に対する親近感は低下し、財政や格差に対する危機感は低下していることがわかる。この変化の原因についてはさらに考察が必要だが、民意の変化が先にあって、安倍政権は後からその現状肯定的な民意にサーフィンしているというのが今のところの仮説である。
 厳しい現実から目を背け、根拠のない多幸感に逃げ込む民意に迫ることが、政治転換の鍵となる。

東京新聞2月17日

2019.02.22 Friday 18:59

報道の自由


 昨年末、首相官邸の報道室長が内閣記者会に対して、名指しはしないものの本紙の望月衣塑子記者を標的に、事実に基づかない質問は現に慎むようにという文書を送り付けた。この事実は『選択』という会員制雑誌で明らかにされ、にわかにマスメディアの報じるところとなった。この間、報道各社は何をしていたのかという疑問もあるが、最も悪いのは首相官邸である。
 官房長官の記者会見で政府の政策や見解について事実根拠や法律適合性を問われても、菅官房長官は、「問題ない」、「適切に処理している」と、人を小ばかにした、木で鼻をくくったような返答を繰り返してきた。問題ないも適切も、しょせん菅氏の主観である。記者会見で質問されたら、事実や法的根拠を示して、政府の正当性を記者、さらにその背後にいる国民に納得してもらうのがスポークスマンの仕事である。
 官房長官の主観で事実を覆い隠す記者会見を繰り返しながら、記者は事実に基づいて質問しろとは何事か。公文書改ざん、統計不正、すべて握りつぶし、責任逃れをしてきた政府が、事実という言葉を使うとは、恥知らずの極みである。
 望月記者がこんな言いがかりでひるんでいるはずはないと思う。ことは、報道の自由にかかわる。報道界全体が政府と対決する時である。

東京新聞 2月10日

2019.02.22 Friday 18:58

主観の過剰と安倍政治の危機


 通常国会の論戦が始まったが、冒頭から統計不正問題で政府は批判の矢面に立たされている。ことは近代国家にとって屋台骨に関わる危険信号である。この問題には、十数年の時間幅で日本をむしばんできた病理と、安倍晋三政権の経済政策が成功しているという演出に関わる部分の二面があると思える。

 毎月勤労統計調査のうち本来悉皆調査を行うべき大規模事業所についてサンプリングでお茶を濁すという悪習が、東京では2004年以降続いてきたことが明らかとなった。過去20年ほどの間の経費削減圧力の中、統計行政の現場は悉皆調査に代えてサンプル調査にして経費を浮かせるという悪知恵を働かせたのではないか。

 これは厚労省に特有の病理ではない。JR北海道では赤字経営の中、保線の経費を維持できず、現場の保線担当者は偽の検査数値を上げて、老朽化した線路を放置した。検査や統計という仕事は、それ自体派手な成果を上げる事業ではなく、現場担当者の良心に依存している。また、組織に資源が無くなれば、真っ先に削減の対象となる。しかし、データを捏造してごまかしを続ければ、JR北海道のように大きな脱線事故を起こす。国の経済にとってもこれは他人事ではない。また、東芝の不正経理や自動車メーカーの検査データ改ざんなど同種の事件は民間大企業でも起こっている。偽装という病が経済統計の世界にも及んでいたのかという驚きはある。それは、正確性や信頼性を二の次にする世の中の風潮の反映でもある。

 もう1つの問題は、安倍政権の成果を粉飾するために統計が操作されたのではないかという疑惑である。これについては、衆議院予算委員会で小川淳也議員が的確な追及を行った。統計の動揺に関しては、次のような経過があった。
2015年9月  安倍首相がGDP600兆円を目指すと宣言。
2015年10月 麻生太郎財務相が統計の精度を上げるようにと発言。
2016年6月 政府の「骨太方針」に統計改革が掲げられる。
2018年1月以降 厚生労働省は毎月勤労統計調査の原データに復元を加え、同年6月の対前年比賃金上昇率が3.3%と公表される。しかし、その後データ操作が明るみに出て、2.8%に訂正される。

 首相や財務省から直接的な指示があったかどうかはわからない。それにしても、経済データがアベノミクスの成功を示すように操作されていることをうかがわせる材料はたくさんある。粉飾決算を行った民間企業では、経営陣の責任が問われることのないように、現場の担当者が上の意向を慮って、利益を計上して各年度の決算をごまかすことを繰り返した。同じことが政府で行われたのではないか。

 統計不正問題は、安倍政治における虚偽、腐食体質の新たな現れである。森友・加計疑惑、働き方改革法案の基礎となったデータにおける虚偽、入国管理法改正の際の外国人技能実習生の実態の隠蔽、そして今回の統計不正である。今までの疑惑の際には、官僚が安倍政権に責めが及ぶことを防ぐために、証拠の隠蔽、文書の改ざん、国会答弁における虚偽など犯罪行為を繰り返してきた。安倍政権が長期化し、内閣人事局によって幹部人事を政権中枢が動かす状態が続いたために、中央省庁の官僚も事実の尊重、法の遵守という公務員の基本的な道徳をおろそかにし、権力に迎合する者が増えているとしか思えない。この点は、国会審議、関係者の招致によって徹底的に追及してほしい。

 安倍政治の大きな特徴は、主観が客観を制圧することである。日本銀行のデフレ脱却策は、失敗が明らかになったのちもひたすら不可能な目標を掲げ続けるという点で、太平洋戦争末期の本土決戦の発想と同じである。アベノミクスの成功という権力者の主観的願望が統計不正を招いた疑惑が濃いことはすでに述べたとおりである。主観過剰を歴史に投影すれば、過去の自国の行動を正当化、美化する歴史修正主義がはびこることとなる。安倍首相は正月休みに百田尚樹氏の『日本国紀』を読むとツイッターで書いていた。首相が歴史に学ぶということをどう理解しているかと思うと、情けなくなる。

 外交の世界でも、主観が客観を駆逐した独り相撲が続いている。日ロ間の領土紛争に決着をつけると張り切るものの、1月の日ロ首脳会談では平和条約締結に向けた具体的な前進はなかった。外交軍事大国のロシア相手に、安倍首相の主観が通じないのは当たり前であるが、日本の政治家のみならず、大方のメディアまでが幻想共同体に浸っていたことが明らかとなった。対米通商交渉では、TAG(物品貿易協定)なる新語をひねり出して国内世論を安心させようとしたが、ウィリアム・ハガティ駐日大使は、2月5日の朝日新聞のインタビューで、TAGという言葉を一蹴し、サービスの自由化も求めると明言した。トランプ政権は日本を大事にしてくれるというのも幻想である。

 歴史を振り返れば、日米開戦の失敗を見ればわかるように、主観の過剰は国を亡ぼす。政治家にとって、価値観、理想という主観は不可欠である。理想はこの世に実在しないから理想なのである。政治家の仕事は、虚栄や先入観を排して事実を客観的にとらえ、現実を一歩ずつ理想に近づけるために解決策を講じることである。「こうであって欲しい」と「こうである」の区別がつかなければ、政治は失敗する。だからこそ、戦後の民主化の中で統計が政府活動の重要分野として位置づけられたのである。

 メディアも、我々政治を論じる学者も、王様は裸だと叫ばなければならない最終局面に来ている。

週刊東洋経済 2月23日号

2019.02.22 Friday 18:56

景気回復の虚妄


 基幹統計のずさんさが明らかになり、アベノミクスが効果を上げているかかどうか、疑念が広がっている。統計疑惑のさなかに、政府は29日に月例経済報告を公表し、景気回復が戦後最長となったと見られるとした。
 景気回復の実感がないという話は各紙も伝えていた。回復どころか、むしろ日本の経済力が衰弱していることこそが、大問題である。1月30日の他紙に、経済同友会代表幹事、小林喜光氏のインタビューが載っていた。その中で、安倍政権の6年間、見かけ上の企業業績改善の陰で、日本では何の新産業も生まれておらず、日本を引っ張る技術がないことに強い危機感を表明している。日本は老いているという指摘に、門外漢の私も共鳴した。
 安倍政治の最大の罪は、世の中に根拠のない多幸感をまき散らしていることである。こんなでたらめな政治を容認する人々が国民の半分前後いること自体が国難である。国の衰退を止める特効薬はない。社会や経済の活気は多事争論の気風から生まれる。バブル崩壊以来、日本は誤った道を進んできたのだから、己の失敗を厳しく認識することからしか、債券は始まらない。愛国心やら日本人らしさやらを学校で若い人に教えこむのはやめた方がよい。自画自賛の人間を育成するのは、将来を危うくする。

東京新聞2月3日

2019.02.22 Friday 18:55

主観と客観


 世の中の出来事について、こうなるだろうとかこうなって欲しいが主観で、こうだが客観である。この2つの区別を忘れ、外に対しても内においても、主観が客観を圧伏するのが安倍政治である。
 内では、統計のずさんな調査が問題となっている。医者が血圧などの数値を正確に測定する意欲を失ったら、医療は成り立たない。統計をなおざりにする政治家や官僚は、日本社会や経済の病気を悪化させることに加担している。文書改竄、働き方改革の際のデータ捏造から統計のごまかしは一続きの腐敗である。
 外では、ロシアとの北方領土交渉で、主観に引きずられる政策論議の愚かさが浮き彫りになった。安倍首相の訪ロ直前のロシア外交関係者の発言を見れば、日本に譲歩する可能性は低いことは明らかだった。しかし、政府もマスコミの多くも、安倍首相とプーチン大統領の親密な関係が事態を打開するトップダウンの新方針をもたらすと根拠のない期待をまき散らした。しかし、国内のメディアはコントロールできても、大国ロシアの首脳には安倍首相の主観的願望は通用しない。
 内でも外でも、自分たちにとって不都合なものであっても事実を直視し、冷静に理解することは、何よりジャーナリズムの使命である。権力を恐れず、事実を伝えるという原点に戻ってもらいたい。

東京新聞 1月27日

<<new | 2 / 168pages | old>>
 
RECOMMEND
CALENDAR
NEW ENTRY
ARCHIVES
CATEGORY
COMMENT
PROFILE
MOBILE
LINK
SEARCH
OTHER

(C) 2020 ブログ JUGEM Some Rights Reserved.