2011.08.05 Friday 12:12

政治の危機と市民

 

 

 前号で予告した政治に対する市民の参加について論じる前に、この1か月の間に日本政治で起こった出来事について考えなければなりません。多くの国民が震災と原発事故で塗炭の苦しみを味わっている時に、国会議員が永田町に閉じこもって権力闘争にうつつを抜かすとは何事かと、日本人はみな呆れかえっています。

私自身、民主党の議員たちに、何度か政治家としての務めを誠実に果たすように訴えました。私はその時、アルベール・カミュの『ペスト』という小説の一節を紹介しました。ペストの流行で完全に封鎖された町と、放射能に脅かされる現在の日本が重なり合い、不条理とどのように戦うかに人間の値が現れると思ったからです。ペストの主人公、リウー医師は言いました。

「今度のこと(ペストの流行)は、ヒロイズムなどという問題じゃないんです。これは誠実さの問題なんです。こんな考え方はあるいは笑われるかもしれませんが、しかしペストと戦う唯一の方法は、誠実さということです。(誠実さとは何かと問われて)僕の場合には、つまり自分の職務を果たすことだと心得ています」

 被災地住民のみならず、多くの日本人が職務を果たし、震災と原発事故という不条理と懸命に戦っています。それを見て自ら襟を正せないような政治家は、もはや国にとって有害な存在です。

 世論調査が示すように、国民は野党が政権を取っても、原発事故対策がうまく行くとは思っていません。現状は、与野党を超えた政党政治の危機なのです。すばらしいリーダーが出現して山積した問題を一挙に解決するなどというシナリオを描く方が、無責任です。むしろ、問題の根の深さを認識し、一歩一歩課題を処理していくという覚悟を決めなければなりません。一度決めたことはどんな弊害を露呈しても後戻りしない日本の政策決定システム、タコツボに入って自分たちの業界の繁栄だけを追求する官僚や学者、自立した思考を持つ人間を排除し、イエスマンが出世していく日本の組織の体質、つかみがねと引き換えに特定の地域に原発や基地などの矛盾を押しつける上から目線の政治の手法。こうした要因がつもり積もって、原発事故という人災は引き起こされたのです。

 私たちにできる政治参加の第一歩は、官僚や専門家の「説明」にすぐに納得するのではなく、分からないことは分からないと言い続けることです。福島県の子どもたちの放射線被曝の問題について、国が示した基準で本当に大丈夫かと不安を持った親たちが、文部科学省に談判に行きました。その結果、校庭の土を入れ替える作業が始まりました。リーダーや専門家の無力さが露呈した今、私たち自身が動くことが今までにないほど重要になっているのです。

第三文明8月号


Comment:
2011/08/05 4:02 PM, ろんじんネット wrote:
山口二郎様
 このたび、ウェブサイト「ろんじんネット」http://ronzine.net を公開致しました。
弊サイトは、政治、経済、社会に関する読み応えのあるブログを紹介し
その更新情報や注目されている記事をお伝えするサイトです。
貴ブログを勝手ながらご紹介させていただいておりますのでご挨拶に参りました。
昨今、ブログはその潜在力をまだ充分に発揮していないと考えておりますが、
ろんじんネットは読者と著者双方へのメリットをご提供させていただくことで
ブログの発展を微力ながら後押しできるのではないかと考えております。
突然の、記事内容に無関係のコメント失礼致しました。
山口二郎様の益々のご活躍を心よりお祈り申し上げます。
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