2006.05.01 Monday 21:28

06年4月:千葉補欠選挙の衝撃と小泉政治の終わり方

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 衆議院千葉七区の補欠選挙で民主党が勝利したことは、これからの政治の展開に大きな影響を与えるに違いない。「政界では一寸先は闇」とはよく言ったものである。まず何より、民主党における小沢一郎代表の指導力はゆるぎないものになった。来年の参議院選挙、さらには次の衆議院総選挙まで、民主党は小沢代表の下で政権交代を目指すという体制を続けるであろう。自民党との明確な対立軸を立てるという小沢代表の姿勢が支持されたことの意味は大きい。他方、小泉首相の威信低下は避けられず、終盤国会の対応いかんでは、さらにはレームダック化も進むかもしれない。

 民主党勝利の大きな原因として、もちろん、小沢代表のメディアにおける露出の増加もあるだろう。しかし、政策的な争点も無視できない。「偽メール騒動」で議論は少しかすんだが、小さな政府路線がもたらした社会の荒廃という現実は変わっていない。格差拡大や福祉サービスの削減など小泉政治の弊害を取り上げ、「負け組ゼロ」の社会を目指すというわかりやすいスローガンを民主党が掲げたことが、厳しい生活を強いられる都市住民にアピールしたことも重要な勝因であろう。自民党の候補者は経済産業省の元エリート官僚であり、勝ち組の典型のような人物であった。これに対して、民主党の候補者は、政治家になるまでの多様な経歴がメディアをにぎわした若い女性であった。昨年の総選挙では「セレブ候補」に負け組や負け組予備軍の人々が支持を与えたが、今回の選挙ではむしろ勝ち組の要素がマイナスに作用したように見える。勝ち組に票を投じても自分の生活がよくなるわけではないという身もふたもない現実にようやく人々が目覚めたということであろう。

 ともあれ、補欠選挙とはいえ、小泉政治への対立軸を明確にすることで選挙に勝てたという「成功体験」を民主党が持つことができたということは、これからの政治の展開に大きな意義を持つ。今まで私が主張してきたことに引き寄せすぎかもしれないが、民主党が政権交代を追求できるとすれば、行き過ぎた格差を是正し、公平な社会を作るというメッセージを発するしか、道はないのである。

 自民党にとっても今回の選挙の結果は大きな衝撃を残すであろう。選挙の直後、安倍官房長官や武部幹事長は選挙結果に過大に反応しないよう議論の沈静化に努めた。しかし、「勝ち組による改革遂行」という小泉政治の基本的な構図にこれ以上国民がついてくるかどうか、多くの政治家は不安を持ち始めるに違いない。小泉政治の終わりに向けてこれからの政権をどのようにして維持するか、言うまでもなく自民党には小泉政治の継承と修正という二つの道がある。この点は、ポスト小泉をめぐる世代対立や政策対立とも関わってくる。自民党がどちらを選ぶかは、自民党の政治家が日本の現状にどの程度危機感を抱いているかによって決まってくるのであろう。

 最近の日本政治を見ていると、内政であれ、外交であれ、大きな空洞化が進んでいるように思えてならない。竹島をめぐって日韓関係に緊張が走ったとき、私はちょうど学会に招かれてソウルに滞在していた。そして、多くの知識人ともこの問題について話をする機会を得た。彼らの中には、ノムヒョン大統領の政治手法に批判的な人も少なくない。しかし、日韓関係をこじらせた最初の原因は小泉首相の靖国参拝にあるのであり、自分の「心の問題」を理解しないのはお前が悪いのだといわんばかりの小泉首相の態度が続く限り、日韓関係の改善は絶望的だという点で、私も韓国の学者も意見は一致した。要するに、日韓の首脳同士が、ポピュリズムの手法で自国の国民を煽りあい、結果として両国の利益が損なわれているというのが現状である。政府の指導者は外交の何たるかを理解していないと言わざるをえない。

 終盤国会に向けては、教育基本法改正が大きな争点になろうとしている。復古主義イデオロギーの争点になると俄然張り切るという自民党の体質は、小泉首相も壊してはいないようである。教育の世界の端くれで働く者として、この点についてどうしても言っておきたいことがある。現在の教育基本法の起草に大きな役割を果たしたのは、田中耕太郎、南原繁など戦後教育改革を指導した立派な学者たちであった。彼らは戦争には反対したが、あくまでナショナリストであった。南原はドイツの哲学者フィヒテの研究者であり、フィヒテはドイツがナポレオンによって侵略を受けたときに「全ドイツ国民に告ぐ」という有名な講演を行った。まさに、教育基本法はこの講演に匹敵するものであり、敗戦に打ちひしがれた日本人に与えられた国民覚醒の文書である。新生日本を担う国民を育成することが教育の目的としてはっきりとうたわれているのである。愛国心という文言が書かれていないから戦後教育は国民意識を育てられなかったなどという世迷い言はいい加減にやめてほしい。いやしくも教育の基本に手を加えるというのなら、これくらいのことはきちんと調べてからにすべきである。教育基本法論議もまた、自民党の知的退廃を象徴している。愛国心が鼓舞され、領土問題が強調される一方で、貧困者が増加し、過疎地の山河が荒れ放題になることが放置されているというのは、奇妙と言う外ない。

 小泉首相がこれからの政策決定に責任感を失い、自民党の政治家が、今の日本が直面している本当の課題から目をそらして自己満足の政策論議にふけるならば、自民党の危機は一気に深刻化するであろう。通常国会の延長をめぐって、小泉首相の威信低下の気配も見えてきた。改革という言葉は空回りし、政治は内政、外交ともに日本が抱える困難に答えていない。ポスト小泉の後継者選びには、こうした現状に対する危機感と緊張感が必要である。(週刊東洋経済5月5日号)

Comment:
2006/05/06 1:53 AM, み〜ちゃん wrote:
行政改革推進法案の参議院質疑は中継を見ていたいと思うけど、教育基本法の改正は、どちらかというと、審議の内容がまとまってからにしたいというのが本音です。愛国心という言葉を何の目的で用いるのかが不明で、これほど立法の場にふさわしくない言葉もないのではないかとかなりの違和感を覚えます。恋といわれたならまさしく故意であるべきかと。(愛は藍国心だろうか)
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