2005.08.09 Tuesday 14:50

衆院解散:自民党政治の終わり???郵政解散に関する感想

 戦後日本政治を見てきた者にとって、自民党が政策問題で分裂することはあり得ないというのが常識であった。自民党は権力の座にあるからこそ党の結束を保つことができるのであり、政権の座から転がり落ちれば、接着剤を失って瓦解する。これは93年の政権交代で痛いほど学んだ教訓であった。だから、郵政民営化についても、今までの構造改革問題同様、最後に妥協して党としてのまとまりを保つというのが常識的な見方であった。7月下旬、永田町である新聞社のインタビューを受けた時、解散総選挙必至という見方に凝り固まっている記者を相手に、近くで見ていたらかえって自民党政治の本質を見失うものだと言ったこともある。小泉は道路公団民営化など構造改革のテーマに関して、実を捨てて名を取るという対応をしてきたし、参議院の自民党議員も党の分裂、政権転落というリスクを冒してまで反対を貫くとは思えなかったからである。

 郵政民営化法案の成立をまじめに追求するなら、継続審議にして反対派を懐柔するなど、現実的な方法はいくらでもあった。しかし、小泉首相は票読みをして負けることは承知の上で、あえて参議院での採決に突入したように思える。つまり、郵政民営化を踏み絵にして、小泉流の改革に対する賛成派と反対派を識別し、衆議院を解散した上で総裁としての公認決定権を使い、自民党から反対派をたたき出すという賭けに出たと理解すべきであろう。自民党をぶっ壊すという彼の言葉は、本気だったということになる。その点では、私も小泉の決意を見くびっていた。田中秀征氏から、小泉の自民党政治変革に賭ける熱意をたびたび聞かされたが、秀征さんは小泉に肩入れしているくらいにしか思っていなかった。その点では、自らの不明を恥じるばかりである。

 国内政策に限ってみれば、大都市から地方・農村部への富の再分配を基調とした自民党政治は行き詰まっていた。本来であれば、90年代中頃に自民党の命脈は尽きたはずであったが、非自民勢力のもたつきによって、また連立政権を巧みに使い分けることによって、自民党は不必要に延命した。2001年に小泉を総裁・総理に選んだ時も、自民党の大半は、人気者小泉を延命のための道具くらいにしか思っていなかったに違いない。看板としての構造改革と実態としての利権の温存を共存させることなど、自民党にとっては造作もない芸当だったはずである。小泉のもとで、自民党は大衆向けの構造改革路線、支持者向けの利権配分という二重人格を取ることによって、延命を図ったのである。

 しかし、政策面の矛盾は臨界点を越えた。小泉首相が進めている新自由主義的な構造改革と、自民党、特に橋本派の守ってきた再分配政治とは、本来相容れないのである。橋本派流の利権配分・弱者救済型の政治を最後まで支えた鈴木宗男は、「国策捜査」によって失脚させられた。自民党政治の軸足が小さな政府、強者優先に傾いていることは、誰の目にも明らかである。市町村合併に続き、郵政民営化は地方の疲弊をさらに決定づけるとどめの一撃になるという実感が、反対派にはあったであろう。

 また、手法面でも小泉は自民党政治に革命を起こした。自民党政治の意思決定過程は、よく言えば合意重視で協調的、悪く言えば責任の所在が不明確で不透明であった。小泉は、国民に自らの重点政策を約束し、その約束の実現に向けて与党を統制するという民主政治においてきわめてオーソドックスなリーダーシップを発揮したに過ぎない。この点を捉えて、従来の自民党政治家は独裁的とか、非民主主義的というが、それはいささか的はずれな批判ではないかと思える。郵政民営化が今の日本にとって有意義な改革だとは思わないが、これから地方分権、財政合理化などの課題に取り組むに当たって、国民との約束をテコに反対を突破するという手法を取る必要が生じることは、しばしばあるに違いない。

 問題は、小泉が自らの重要政策について、国民から明確で堅固な委任、信託(mandate)を取り付けられていなかったところにある。国民の大半は郵政民営化の必要性をまだ理解していない。2003年の総選挙、2004年の参議院選挙で、自民党の候補者から小泉マニフェストに対してはっきりした忠誠を取り付けることもできたであろうに、小泉自身、自民党の二重人格戦術に荷担したことは否めない。

 私は、小泉流の構造改革、小さな政府路線には反対である。しかし、今までの日本の政党政治における責任不在の構造を断ち切るためには、小泉のような変人が革命を起こすことが必要だとも思う。90年代中頃から回り道を続けてきた日本の政党再編において、1つ段階を進めたことについて、小泉の力業を大いに評価しなければならない。後は、民主党がどれだけ明確な政権構想を打ち出せるか、新自由主義を否定する政策を打ち出せるかが問題である。(ブログ書き下ろし)


Comment:
2005/08/09 11:39 PM, KIT wrote:
今回の書き下ろしに共感しました。 小泉改革のすべてを評価するわけではありませんが、一つを成さなければこの国に未来を感じることすらできなくなりそうです。その意味では久しぶりにリーダー然とした政治家を見た気がします。 今回の選挙が本当に未来に目を向けたものであり、国民が未来を選択できるものであるためにも、それを提起できる政治家に登場してほしいと願います。
2005/08/11 7:00 PM, 高本邦彦 wrote:
山口先生のホームページはいつも興味深く拝見しています。しかし、今回の「衆議院解散」における小泉評価には賛同できません。イギリスは国王が元首で、首相は実質上の大統領ですが、日本の首相はそうではありません。議院内閣制の下では、所属政党の多数意見を尊重しながら政権運営をする必要があります。総選挙の公約に掲げた政策は首相のリーダーシッサプを発揮して断固としてそれを実現すべきだとおっしゃいますが、公約を決める際の討論の時間と手続きが充分に保証されているのかどうか検証する必要がありませんか。あまり形式論を振り回しても不毛だ思います。ましてや小泉さんの特異なキャラクターと旧田中派つぶしと言われる政策の動機とを忘れてはいけないと思いますが、如何。
2005/10/09 1:07 AM, CCNP wrote:
今回の選挙結果で取り敢えず回避出来たのは福島瑞穂さんが望む「努力しない人間が報われる社会」の誕生やね。。。
2005/11/03 2:02 AM, yuki wrote:
ご存知かもしませんが、 是非ご覧ください。。 「借金時計」 www.takarabe-hrj.co.jp/takarabe/clock
2008/01/14 3:56 PM, 世界の富士山 wrote:
自民党は今は郵政選挙の数で 強引に法律を通すのは かなり 矛盾をカンジマス早く国民の声を とうべきだと おもります
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