2018.07.03 Tuesday 18:39

安倍政治をめぐる幻想と幻滅

 6月に入って、米朝首脳会談、大阪での強い地震などいろいろな出来事が相次いで、政治への批判は低下している。各社の世論調査でも、内閣支持率が若干上昇し、不支持率が低下する兆候が表れ、安倍晋三政権は奇妙な余裕さえ漂わせている。通常国会の会期を32日間延長し、働き方改革法案、カジノ解禁を柱とする統合型リゾート(IR)関連法案、参議院の選挙制度改革など、国民には極めて不人気な政策をすべて実現する構えである。

 6月のNHKの世論調査では、働き方改革法案について「賛成」14%、「反対」32%、「どちらともいえない」44%、IR=カジノ法案について「賛成」16%、「反対」38%、「どちらともいえない」36%、参院選挙制度改革について「賛成」9%、「反対」34%、「どちらともいえない」43%という結果が出た。多くの人々は安倍政権が推進する重要政策が有害であることを理解している。また、6月の共同通信の世論調査では、森友学園、加計学園をめぐる疑惑についても納得していないという人が78.5%に達した。モリカケ問題に国民が飽きているというのは、疑惑をごまかしたい側がつく嘘である。

 国民は、政策の適否についてある程度冷静に判断し、政治腐敗に対しては常識的な倫理観を持つ。それらに照らせば安倍政権は落第のはずであるが、国会運営は政府与党ペースで進み、9月の自民党総裁選挙では安倍首相の三選がすでに確実視される形勢である。政策や権力者の行状を見て政権を評価するという従来の民主政治のサイクルが作動しなくなったというしかない。

 様々な問題があるにもかかわらず長期化する安倍政権を支持あるいは許容している民意の一端を示すデータとして、内閣府が今年2月に行った「社会意識に関する調査」がある(https://survey.gov-online.go.jp/h29/index-h29.html)。これによれば、第2次安倍政権が発足した2012年あたりを境に、国民の社会意識に変化が起こっている(以下、小数点以下は四捨五入)。国を愛する気持ちについて、「強い」という答えが12年の46%から18年には56%に増加、逆に「弱い」という答えは12年の12%から18年には6%に半減している。社会全体に対する満足度について、12年には「不満」が55%、「満足」が44%だったが、18年には「不満」が35%、「満足」が64%と大きく逆転した。国の政策への民意の反映程度という質問については、12年には「反映されている」18%、「反映されていない」77%だったが、2018年には「反映されている」30%、「反映されていない」66%と満足度は大きく改善している。良い方向に向かっている分野という質問について、12年には「医療福祉」が23%だったが、18年には32%に増加した。悪い方向に向かっている分野として、12年には「財政」が55%だったが、18年には35%に低下している。

 東日本大震災の衝撃と民主党政権の不手際の後に第2次安倍政権が発足し、大規模な金融緩和によって企業収益改善という成果を上げたことで、政治や社会に対する満足度が改善したことがうかがわれる。しかし、安倍政権下で医療福祉が改善されたという事実はないし、国債残高は累増の一途なのに、財政悪化に対する危機感は大きく減少している。世の中に対する評価の好転は正しい情報に基づいた、論理的・知的な吟味によるものでない。麻生太郎副総理が24日の講演で新聞を読まない人が自民党を支持してくれていると述べたのも、このあたりの機微を理解しているゆえであろう。

 実際、安倍政権は、暗黒の民主党政権、再建の安倍政権というイメージを定着させることに成功した。民主党政権が崩壊して6年近くたつが、安倍首相はしばしば民主党の失敗を引き合いに出して、自分を正当化する。国民の方も、一旦そのようなステレオタイプを固めると、そのステレオタイプを持続するように物事を評価するようになる。政策の効果を評価するから政権を支持するのではなく、政権を支持するから世の中がよく見えるのである。この点については、ウォルター・リップマンの洞察を紹介しておきたい。

「よりいっそう公平無私な心像を求めようとするときに、われわれはステレオタイプに固執してしまうことがきわめて多い。(中略)ステレオタイプの体系はわれわれの個人的習慣 の核ともなり、社会におけるわれわれの地位を保全する防御ともなっているからだ。」(『世論』、上巻、130頁、岩波文庫)

 野党や自民党内の挑戦者が政権を脅かすことはなさそうだ。しかし、安定をもたらす安倍政治というステレオタイプと現実との乖離が否認できないほど広がる可能性はある。綻びが起こる可能性が最も大きいのは、安全保障、外交の領域である。安倍首相は、北朝鮮の脅威を国内政治に利用し、拉致問題については日本人の被害者意識を刺激し続けた。問題解決のために主体的に動くというよりは、相手方との接触を断ち、ひたすら強硬姿勢を叫ぶことが強いリーダーというイメージを作り出すと考えていたのであろう。だが、米朝首脳会談を契機として、朝鮮戦争の終結、核ミサイル問題の終息に向けて米韓中の各国が動き出せば、日本も北朝鮮との国交正常化や拉致問題の解決に向けて結果を出すことを迫られる局面が訪れるかもしれない。

 かつて、前原誠司氏が「言うだけ番長」と揶揄されたが、外交に関しては安倍首相こそ言うだけ番長である。北朝鮮に対して、圧力だけで拉致問題が解決しないのは明らかである。国交正常化の全体のプロセスの中で拉致問題の解決を図るしかない。そして、日朝平壌宣言でうたっているように、日本側は過去の歴史を反省し、補償を支払うことも必要となる。安倍首相にとって、長期政権を実現するうえで、得意としてきたはずの外交で指導者としての真価が問われることとなる。


週刊東洋経済 7月7日号


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