2017.12.12 Tuesday 17:06

総選挙と野党の在り方

 衆議院解散とともに、最大野党だった民進党が事実上分裂し、政党の戦列は混沌としたまま総選挙に突入することになりそうである。安倍首相が解散方針を表明した9月25日から1週間、野党側で私自身が経験したり関係者から聞いたりしたことを整理しておきたい。
9月26日 安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合(以下市民連合)を代表して私と数名のメンバーは、4野党の幹事長、書記局長と会談し、総選挙における小選挙区候補の一本化と7項目の共通政策骨子を提言する要望書を手交した。共産、自由、社民の各党だけではなく、民進党幹事長からも、基本的に同意できるので、要請の実現に向けて努力したいとの回答を得た。市民連合を媒介とした野党のブリッジ共闘の枠組みができたと私は判断した。しかし、同日夜、新聞記者から民進党の前原誠司代表が、連合の神津里季生会長とともに小池百合子東京都知事と会談するという話を聞き、私の楽観は一転した。民進党執行部は小池新党と連携し、従来の野党協力を解消し、リベラル派を切り捨てるという方針を追求するのかと、暗澹たる気分となった。
27日 小池知事が希望の党代表に就任するとの立ち上げの記者会見が行われた。民進党の総選挙候補者はすべて希望の党から公認を得て立候補するという前原代表の方針が表明された。
28日 衆議院解散。その後の民進党両院議員総会で、衆議院議員及び候補者がすべて希望の党へ移行して総選挙を戦うという前原提案が了承された。
29日 小池氏は民進党からの公認申請者について、憲法、安全保障に関する見解が異なるリベラル派を排除すると明言した。これにより、民進党内のリベラル派は無所属で出る、新党を結成するなど新たな対応の模索を始めた。
30日 民進党リベラル派と連合は前原氏に対して、希望の党の排除方針を撤回させるべく話し合うよう求めたが、希望の党からは反応はなかった。
10月1日 新党結成か希望の党への合流かをめぐって、リベラル派の中での模索が続いた。NHKの日曜討論で、希望の党の若狭勝氏がこの総選挙で一気に政権交代を実現することは無理と発言し、この党の戦略が明確でないことが露呈した。
10月2日 枝野幸男氏を中心として、リベラル派の新党、立憲民主党が立ち上げられることになった。連合も、旧民進党所属の議員について現在の所属に関わらず、個別に推薦するという方針を決めた。
 前原方針が提案されたとき、私は最大限の希望的観測を描いてみた。希望の党にあるのは小池氏の人気とメディアへの影響力だけであり、総選挙を全国で戦う資金、組織、人材はすべて民進党が提供することになる。したがって、小池氏の新鮮さをアピールする高飛車のメッセージの陰で、実際には民進党の政治家が希望の党を動かし、この総選挙で一気に自民党を過半数割れに追い込み、政権交代を実現するというものである。私は前原氏自身から、最終的にはリベラル派を含めて200人の民進党候補が希望の党で公認され、基本政策も右翼的な改憲ではない、従来の民進党の路線と矛盾しない表現になると聞かされたこともある。そのような可能性もあったのかもしれない。しかし、候補選定と政策の交渉は極秘裏に行われ、その間希望の党の側から排除の方針が強い言葉で繰り返され、リベラル派にとって希望の党から出馬するという選択はありえなくなった。
 以上が、私が見た事実経過である。前原氏の最大の誤りは、希望の党への合流の手続きについて小池氏との間で明確な取り決めをしなかった点にある。金も組織も民進党が出すのだから、前原氏が優位に立って実務を進めることもできたはずである。しかし、表向きは一貫して小池氏のペースで話が進み、リベラル派は追い詰められた。小池氏のメディアでの独走を許したことで、前原氏は失敗した。
 小池氏にも大きな失敗があった。それは、首相候補を決めないまま新党を作ったことである。小池氏が代表になって新党を立ち上げる以上、首相候補には小池氏自身がなるしかない。しかし、都知事を1年余りで放り出して国政に出ることも大きな批判を招く恐れがある。小池氏の進退が定まらないまま政権選択を叫んだところで、迫力はない。
 民進党の分裂はいくつかの偶然と、指導者の錯誤の結果起こったのだが、長い目で見れば過去25年間の政党再編における、大きな野党を作るプロジェクトの矛盾がこのタイミングで露呈したということもできる。小選挙区制を導入して以来、自民党に対抗する大きな野党を作る試みがあり、挫折した。日本の場合、左派が二大政党の一翼を担う力がなく、左派と自民党以外の保守勢力の提携で対抗政党を作るしかない。しかし、政治の基本方針をめぐって軋轢が続き、一体感を欠くという弱さを抱え続けてきた。今回、希望の党という個性の強い保守新党と提携するにあたって、民進党内の食い違いが露呈した。小選挙区を生き残るという動機だけで政党を統合することの困難を痛感した次第である。
 この総選挙は、自民・公明連合、希望の党、新党を含む野党協力の3極の構図となった。民進党の分裂で、自民党は過半数維持に向けて胸をなでおろしているのだろう。希望の党の混乱を見ていると、この党が早晩内紛を起こし、さらなる野党の再編が起こるのは必至と思われる。野党の足の引っ張り合いにも意味はある。これから安倍政治に対決する際に、どのような基本政策で選択肢を提示するのか、この選挙結果から見えてくるのではないか。立憲民主党にとっては、希望の党の実体が存在しない地方においてどこまでメンバーを確保できるかがとりあえずの焦点となる。

週刊東洋経済 10月14日号

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