2017.12.12 Tuesday 16:59

総選挙が示した野党の課題


 与党圧勝の総選挙結果だが、圧倒的な議席数の背後には安倍晋三政権の脆さや揺らぎも現れつつあることがわかる。この総選挙は前例のない奇妙なものであった。選挙戦中に朝日新聞が行った世論調査では、安倍首相の続投を支持する人が34%、支持しない人が51%、自民一強体制をよいことだと思う人が15%、よくないことだと思う人が73%だった。安倍政権の政治手法や政策に不安や不満を持つ人が多数派であるにもかかわらず、選挙では圧勝した。
 なぜ不人気な政権が勝てたのか。解散時の最大野党だった希望の党が、政権選択と叫びつつ、安倍氏に代わる首相候補を具体的に打ち出すことができず、「排除」を持ち出して野党勢力を分断した時点で、勝負はついていた。政権を選べと言われつつ、野党側が次の政権のイメージを示すことをしないのだから、有権者は野党に投票するわけにはいかなかった。総選挙をおごれる安倍政権に対する「お灸」と意味づけるならば、人々は安倍政権の存続を前提としつつ、もっと自由に野党に投票しただろう。
 55年体制の下では、自民党政権の存続は自明の前提であり、有権者は自民党の行状を見てしばしばお灸をすえ、与野党伯仲状況が出現した。その後、1990年代の選挙制度改革と政党再編の後は、総選挙は政権選択の機会とされた。そのことの是非について、この選挙を通して考え直す必要があると思う。
 政権交代のない55年体制を打破するために小選挙区制が導入され、自民党に対抗する大きな野党の塊を作る模索が続いてきた。しかし、新進党の解体、民主党の分裂、さらに今回の民進党の分裂と、その試みはことごとく失敗に終わった。3回同じ失敗を繰り返したということは、小選挙区というタガをはめて大きな野党を作るという発想そのものが間違っていたことを意味する。私自身はこの25年ほど、政治改革と政党再編の旗を振った張本人だったので、意地を張って、失敗してもともかく野党結集を叫んできた。しかし、間違いは認めなければならない。
 民主党が2009年に政権交代を成就できたのは、政権交代がこの党の唯一の結集原理であったからで、それを実現すれば同党の歴史的意義はなくなったわけである。自民党は長い与党経験の中で、党内の多様性を持ちながら権力保持のためにまとまる術を体得している。野党を作るときには理念や基本政策を軸に党の統合を図らなければならない。しかし、小選挙区で生き延びるという利害以外に共有すべき理念がないのだから、自民党に挑戦する際にも迫力が生まれない。
 今回、立憲民主党が70数名の候補者しか擁立できなかったにもかかわらず、比例代表で1000万を超える票を得たのは、前原誠司氏が民進党の右派や機会主義者を希望の党に送り込み、それに同調しない政治家がリベラリズムを基調とする旗幟鮮明な新党を立ち上げ、これを歓迎する市民が投票したからである。リベラル派だけで、前2回の総選挙における民主党の比例票を上回る得票ができた。共産党の比例票が前回よりも160万も減ったのは、民主党・民進党の雑居性を嫌っていたリベラルな市民が立憲民主党を支持したためだろう。
 選挙制度の再検討は必要である。少なくとも、細川護熙氏が言うように、小選挙区と比例代表を1対1の比率にすること、比例代表を全国一本にすることが望ましい。とはいえ、それが実現する可能性は低い。今の制度の中で自民党に対抗する、政策的基軸を持った野党を作り出すという課題に取り組まざるを得ない。一件、二律背反に見える政策的な一貫性と政党の規模拡大をどう両立させるのか。
 立憲民主党が野党連合の主軸に成長するためには、革新、リベラルの市民だけではなく、安倍政治に不安・不満を持つ穏健保守層の支持を集めることが必要となる、その意味で、枝野幸男代表が自らを保守と規定することは的確な路線である。今の日本政治においては、何を保守するかで大きな路線対立を描くことができる。安倍首相は、大日本帝国を回復し、これを保守したいと思っているのであろう。これに対して、野党は戦後民主主義を保守するという旗印を明確にすべきである。ここで言う戦後民主主義とは、特に1960年代以降自民党と野党の相互作用の結果定着した路線である。日米安保を基調としつつ、憲法の枠内での適度な自衛力を持ち、アジア諸国との友好関係を保持する。市場経済を基調としつつ、ある程度の公平な分配を維持する。かつて自民党の穏健派が追求したこのような路線を掲げる勢力が、自民党に対抗することで、政治の選択肢が生まれる。昔、自民党内で起こった右派と穏健派の間の権力交代を政党間で起こすというのが、今後ありうる政権交代のイメージである。
 もちろん、単純に昔に戻れという話ではない。人口減少時代でいかに経済の持続的成長を実現するか、中国が大国となった時代にいかに東アジアの秩序を作るか。難問山積ではあるが、自民党政権が答えを持っているわけではない。
 次の国政選挙は2年後の参院選だろう。それまで、野党の合従連衡には背を向け、政策構想を練ることが立憲民主党の課題である。選挙協力は選挙が目前にならなければ具体的に進捗しない。むしろ、同党は他の野党や労働組合の連合とも緊張感を持って、政策論議を深めるべきである。例えば、原発のない社会をつくるという大きなビジョンを描き、その中で新たな雇用や地域経済の創造という政策を打ち出して連合を説得するというような力技を発揮できれば、政党政治の可能性に対する人々の期待を喚起することもできるだろう。野党は志を持って、思索と論議を重ねる時である。

週刊東洋経済 11月11日号

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