2014.10.31 Friday 10:46

ローカルな大学の役割

 

 グローバル化、入試改革など、次から次へと文部科学省から無理難題を吹っ掛けられ、大学人は疲弊する一方である。入試についてひとこと言わせてもらえば、求める人物像を明記したうえで人物重視の入試をせよなどというのは、現実を知らない官僚の作文である。プロ野球のスカウトは高校生を取る時、足の速さと肩の強さを見ると言われるが、大学の教師も同じである。知的な基礎体力があって、練習をいとわない向上心があれば、大学に入っていくらでも鍛えられる。18歳の若者が、自分は将来こんな大人になってこういう仕事をしたいなどと理路整然とプレゼンテーションするならば、そちらの方が気味悪い。


 今日の本題は、ローカルな大学の役割である。「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議」という長ったらしい会議の委員で、経営コンサルタントの冨山和彦という人物が、この会議の初回の会合で配布したペーパーがネット上で話題になった。それは実に正直に今後の大学の二極化を打ち出している。彼は、グローバル化にさおさして創造性を追求するのをG型大学、ローカルな次元で役立つ人材を輩出するのをL型大学と分類している。L型大学では、英文学の代わりに地元の観光案内をするための英会話を、憲法や刑法の代わりに道路交通法と大型特殊免許を身に着けるべきだとして、教師も学者ではなく専門学校のインストラクターになれと提言する。これは経済界のエリートおよびそれに迎合する政治家や官僚の本音であろう。


 知的活動はグローバルな競争をするエリートが独占すればよく、地方には知識はいらないという傲慢さには、唖然とするばかりである。また、地方は知識なしでやっていくべきだという決めつけも、実態からかけ離れている。地域の環境を守り、魅力ある風景を作り出すためにどんなルールをつくるか。地域の特産品から新しい製品を作り、それを全国あるいはグローバルな流通にいかに乗せていくか。現に地域の人々が取り組んでいる課題を実現するためには、美的センス、専門的知識、あるいは国際的な経験が必要とされている。そこでこそ、大学の持つ知識やネットワークが必要とされる。


 20年ほど前から私は北海道で地方自治土曜講座の講師を務め、自治体職員や地方議員に政治学の一端を講義した。そこで話したことは、すぐに役立つ実務の知識ではなかった。しかし、今という時代がどう流れており、中央政府にどんな問題や限界があるかを考えたことは、その後の仕事に役立っているはずである。その頃の受講者の中には、今自治体の首長になった人もいる。


 地域社会の考える力を強めることが、地方創生の王道である。北海道はその意味での先端を走ってきたはずである。


朝日新聞北海道版10月30日


Comment:
2014/11/19 1:02 AM, 小林 昭人 wrote:
「法学部と大型特殊免許」 その1

>憲法や刑法の代わりに道路交通法と大型特殊免許を身に着けるべきだとして、教師も学者ではなく専門学校のインストラクターになれと提言する。

 富山さんの元のプレゼンを読みましたが、趣旨は別に悪いことではないと思いますよ。ただ法学部で教えるには道交法は程度低すぎる(読めば分かる法律で解釈論も何も必要ない)ので、これは教養で良いと思いますがね。と言うより、続く内容が宅建合格とかビジネス法務とか、経営学部にしてもせいぜい簿記2級、何かこの人のコンサルティングを受ける会社の将来が不安になってしまいますね。こんなの中高生で十分じゃないですか(中学生でも受かると思います。ちなみに私はアマチュア無線技士の資格は小学4年生で取りました)。これは国民一般の知性水準につきあまりに無知、どこか後進国の国民相手と勘違いしているのではないでしょうか。

 悪いことではないというのは、確かに今の大学教育は実践的な内容が不足気味で、しかも、大学のネームバリューに依存しすぎるあまり、学業と就業のコネクションが貧弱なことです。免許など、すぐに使える技術を比較的廉価なコストで習得できれば活躍の機会は拡がることでしょう(大型二種の取得には30万円程度かかる)。英会話教室(月謝1〜3万円程度)も学費に含まれるなら、それに越したことは無いでしょうね。確か論者の行ったアメリカの大学は授業は一コマ一コマ買っているのですが、パッケージで提供してくれるならその方がいい。

 しかし、これらの内容を実現するにはコストと人手が必要で、当然、それについては顧客である企業側のドネーションは半ば強制という形で無理やり行わせる必要はあるでしょうね。件のレポートにはコストの調達方法についてはないようです。思うに経営コンサルタントの発想で、コストを外部化(国、大学に転嫁)できればそれで良い程度のものでしょう。

 そもそも、論者がコンサルティングの専門家と言うのなら、そのコスト調達法についてこそ、力こぶを入れて力説すべきで、それを欠いた願望の羅列で、それが通ると思えるのでは、これは論者の経歴は立派ですが、精神的にあまりに幼稚と言えるのではないでしょうか。こんなのは彼が好きな企業でも企画書として通らないんじゃないかと思いますよ。

 私として憂慮するのは、富山さんの提案は英語や法学部についてはそれほど問題はないものの、他の提案、法学よりも企業に利益をもたらす工学や経営における同種の提案に致命的な欠陥があると思えることです。

 「マイケル・ポーター」ではなく「弥生会計ソフト」、「機械力学(何ですかそれは?)」ではなく「トヨタ最新工作機械(色々ありますがトヨタは工作機械は作っていないと思いますオークマかファナックの間違いでは)」という考えの一番の問題点は、これらの技術はパラダイムの変化やそうでなくとも通常のモデルチェンジで知識が簡単に陳腐化するということです。メインフレームの技術者なんか今は職もありませんね。

 大学教育には最低でも4年が必要で、大学院まで含めば6年にもなる。富山さんのいうL型技術が教授している間に陳腐化しないとは誰にも言えないし、今の趨勢を見ると、その可能性はかなり高い。

 だから大学ではもっと基礎的な、本質的な内容を教授する必要があり、それがあって初めてパラダイムの変化に呼応するキャッチアップも可能になる。知識ではなく、単なるノウハウの伝授ではそれは叶わない。

 思うに、富山さんの挙げている内容は大学ではほとんど教授する価値の無い内容、機会の提供は構わないものの、優先順位の低いものではないでしょうか。

 あと、この論説の変な所は法学部の学生に道交法と大型免許を取得させても、その就職先はバスの運転手か工事現場で、これも前者は生産性の低いサービス業であることですね。労働生産性の向上を訴えている論者がせっかく育てた人材を低生産性の現場に投入しては、彼の希求する生産性はさらに下がり、これは提言としても破綻しているのではないでしょうか。

 それに、そんなに生産性が大事なら大学生には大型特殊免許ではなく、船舶免許や深海ボーリング技術でもマスターしてもらい、日本近海で油田掘りでもしてもらう方がよっぽどよろしい。探せばあるという話だし、当たれば生産性は一挙に向上し、彼の言う生産性の問題など消えてなくなる。労働生産性が一番高いのは今も昔も原料素材産業ですからね。

 しかし、冗談が冗談として笑えないのは、私にはジョークに見える(一応プレゼン日は9月19日だそうです)この内容があろうことか総理大臣に講説されていることですね。日本の総理とその取り巻きは、金と金メッキの区別も付かないのでしょうか。

2014/11/19 1:07 AM, 小林 昭人 wrote:
「法学部と大型特殊免許」 その2

 競争力とかグローバル人材とか特区とかが叫ばれ、喧しいですが、私が見る所、識者がそう言えば言うほどこの国の国力は弱化し、国と国民の劣化も進んでいるように思いますね。私も今はタイ車に乗っています。

 何でかといえば、日本が(かなり)高性能の特殊鋼板加工機械を輸出して据え付けてくれたため、今や日本製よりタイ製の方が工作精度が良いこともありますが、日本が戦争責任の問題をいつまでも総括しないため、アジア外交に出遅れ、東南アジアを中心とする経済圏に入れなかったことが原因です。ここで日本から自動車を輸出すれば関税を掛けられますが、これら諸国の間ではタダです。だから機械をアジアに持って行っている。これは外交の失敗で、それ以上でも以下でもない。

 優れたものを数多く持ちながら、それを生かせず、下手な商人のようにアジアほか諸外国に自国のストックを放出しているこの国を見ると、いいかげん人と物(技術)の安売りは止めろと言いたくなりますね。

 日本はアメリカは追い抜きましたが、中国には追い抜かれ、今の所両国の国力は拮抗した状態にあります。片方は上り坂、一方は落ち目、落ち目の方は凋落していく国力に歯軋りし、止める方法もないので呻吟しています。これは戦争の危険もありますね。戦争になったとすれば、また、戦争のための軍備に注力して経済を失速させたならば、これも政治の失敗。

 先生がご紹介されたプレゼンはこれが一国の総理に展覧する内容かと思いましたが、経済成長を志向しながらそれと矛盾する軍事費増額など、金融緩和は初に反対したエコノミストはいなかったと思いますが、当然予想できることとして、所定の成果を挙げられなかったことに対する消費税増税など、安倍政権の政策には一部には正しいと思えることもありますが、ここで後付けといえる、総理とブレーンが執心する合理性のない余計なオプションが全てを台無しにしているようにも見えますね。

 この国に欠けているのはアイデンティティです。敗戦直後とは時代が変わり、アメリカの時代も終わり、この国には自立が求められているのですが、大学の政治学者はそれを提示していない。ネトウヨなどの策動、ファシスタな橋下など色々いましたが、安倍の極右傾向といい、全てはこの国のアイデンティティ確立のための試行錯誤、より穏和な道への道程だと考えれば見れないことは無いです。

 かつてマッカーサーが「日本人は12歳」と言いましたが、平均年齢など今はそれより老成しているとはいえ、精神的には「日本人はまだ20歳」と考えれば、これから道交法を教えなければならない政治学者の道標はまだあるのではないでしょうか。プレゼンを見た所、富山さんにその知性があるようには見えませんので。

 それにしても、ご紹介のこれ、久しぶりに見たバカ臭い論説でした。これが日本の総理のねえ、、呆れてものも言えない。
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