強者の政治に対抗する
山口 二郎
尊敬する先学、友人の皆様へ
年の瀬も押し詰まり、皆様にはお忙しい毎日と存じます。今年も残り10日というところで、岩波書店から1冊本を出しました。これは今年1月から7月まで『世界』に連載された政治家との対談をまとめ、優れた同時代批評をなさっている二人の文学者との対談を加え、さらに小泉政治、安倍政治に対する私自身の論評を合わせて1冊にまとめたものです。気楽に読める本なので、冬休みの仕事の合間に目を通してくだされば幸いです。
安倍政権最初の臨時国会では、教育基本法改正、防衛省の誕生など、戦後民主主義を支えてきた重要な法制度が大きく変改されました。また、沖縄県知事選挙の残念な結果に表れたように、戦後民主主義や平和を訴えるだけでは、民意を動かせないという厳しい現実に我々は直面しています。
しかし、内外の複雑な政策課題に直面して、安倍政治は困難な舵取りを迫られることも明らかですし、郵政造反組の復党以来、国民の安倍政治を見る視線は厳しいものとなっています。
私は最近、気持ちがくじけそうになると、魯迅、竹内好、中野重治を読み直しています。絶望という言葉を安易に使ってはならないと自戒するためです。中野が、魯迅の『故郷』の末尾にある有名な文章、「希望とは地上における道のようなものである」について論じた言葉があります。
「希望というにはあまり深い暗さと、暗さそのものによって必然の力で羽ばたいてくる実践的希望との生きた交錯、交替」
この言葉をかみしめている所です。
来年は、大きな選挙が予定されており、日本の民主主義にとって重要な年となることでしょう。私も悔いのないように言論活動をしたいと思っています。来年が皆様にとってよい年であるよう、お祈りいたします。