2018.04.30 Monday 16:46

学問の自由

 公のメディアで発言する以上、私の主張に対して批判があるのは当然である。しかし、根拠のない言いがかりには反論しなければならない。
 このところ、政府が研究者に交付する科学研究費について、杉田水脈、櫻井よしこ両氏など、安倍政権を支える政治家や言論人が、「反日学者に科研費を与えるな」というキャンペーンを張っている。私は反日の頭目とされ、過去十数年、継続して科研費を受けて研究をしてきたので、批判の標的になっている。
 櫻井氏は科研費の闇という言葉を使っているが、闇などない。研究費の採択は、同じ分野の経験豊富な学者が申請書を審査して決定される。交付された補助金は大学の事務局が管理して、各種会計規則に従って、国際会議の開催、世論調査、ポスドクといわれる若手研究者雇用などに使われる。今から十年ほど前には、COEと呼ばれる大型研究費が主要な大学に交付されたので、文系でも億単位の研究費を使う共同研究は珍しくなかった。研究成果はすべて公開されているので、批判があれば書いたものを読んで具体的にしてほしい。
 政権に批判的な学者の言論を威圧、抑圧することは学問の自由の否定である。天皇機関説を国体の冒瀆と排撃した蓑田胸喜が今に生き返ったようである。こうした動きとは戦わなければならない。

東京新聞4月29日

2018.04.23 Monday 16:39

政治と軍事

 このところ、腐敗や不品行に関して底が抜けた感のある安倍政権である。民主主義に対する脅威という点では、高級官僚のセクハラよりも、現役幹部自衛官が野党国会議員に「国民の敵」と罵声を浴びせた件の方が深刻である。
 自衛官にも思想、言論の自由はあるという奇妙な擁護論もあるだろう。それは誤りである。例えて言えば、自衛隊は日本人を守るガードマンのようなものである。ガードマンの方が、自分が敵と思う者は守らないと言い出したらどうなるか。守られるはずの市民がガードマンに気に入られるようびくびくしながら生活するとすれば、それこそ主客転倒である。
 日本では今から80年ほど前に実際にそのようなことが起こったのである。軍人は武器を持っていた。危険な思想に染まれば容易にテロリストに変身した。彼らが政治家を殺害し、新聞社を襲撃し、日本は軍政一致の全体主義に転落していった。
 戦後の自衛隊はそのことへの反省から出発した。吉田茂は、「自衛隊が国民から歓迎され、ちやほやされる事態とは、国家存亡の危機の時か、災害派遣の時とか、国民が困窮している時だけなのだ。言葉を変えれば、君たちが日蔭者である時の方が、国民や日本は幸せなのだ」と言った。自衛隊を日陰者にするつもりはないが、自衛隊の本質を言い当てている。

東京新聞4月22日

2018.04.17 Tuesday 15:45

言葉という武器


 映画『チャーチル』を見た。第2次世界大戦の緒戦でドイツが優勢を極め、英政府内にも対独宥和派がいた。これに対し、チャーチルがナチスと戦い抜くという決意を議会演説で訴え、議員や国民を鼓舞する場面が圧巻である。宥和派の閣僚が、チャーチルは言葉を武器に変えたと述べたセリフも印象的だった。
 安倍首相もこの映画を見たそうだ。首相は、チャーチルとは真逆の意味で言葉を武器にしている。彼の発する言葉はことごとく国民をうんざりさせ、政治なんてこんなものと虚無的にさせる。国会で自分や下僚が嘘をついても、問題ないと強弁し続ければ国民もすぐに忘れると高をくくっているのだろう
 チャーチルの「我々は絶対に屈服しない」という名言も、たぶん首相は我田引水で理解しているのだろう。チャーチルは民主主義を破壊するナチスと戦ったのに対し、首相は自ら民主主義を壊しているにもかかわらず、足を引っ張る野党やマスコミに屈服しないと決意を新たにしたのではないか。
 チャーチルは演説を行う直前、地下鉄に乗ってロンドン市民の声を直に聞いて、自由を守る決意を固めた。我が国の首相は市民の声など聞きたくないのだろう。ならば聞こえるまで声を上げるしかない。我々が虚無主義になれば、あちらの勝ちである。

東京新聞4月15日

2018.04.09 Monday 14:23

緊急事態

 このところ、官庁で文書の隠蔽、捏造、改ざんが相次いでいる。我々の日常的な活動において、契約書の文言をこっそり書き換えるとか、あるはずの文書を隠して廃棄したと言い張るとかいったことが起これば、取引は成り立たない。役所には我々の常識は通用しない。
 しかし、雨が降ろうが槍が降ろうが安倍政権を正当化したい人はいるものである。彼らの言い分は、朝鮮半島情勢や日米関係が急展開する中、日本の国会やメディアはいつまで文書改ざんや隠蔽に没頭するのかという、一見国益を重んじる議論である。冗談ではない。非常識な政府が重要な政策を決めること自体が国益を損なっているのである。
 自衛隊の活動記録にせよ、国有地の不正な値引きにせよ、1年以上前から野党やマスコミは疑問を呈し、真相の解明を要求してきた。しかし、安倍政権は官僚の子供じみたごまかしを擁護し、根拠もなしに問題ないと強弁し続けた。政府の指導者が初動の段階で率直に問題の存在を認め、情報公開を実行していれば、今頃野党に足を引っ張られるなどと泣き言をいう必要はなかったはずである。
 自民党の改憲案は緊急事態への対応が必要だという。今がその緊急事態なのだ。そして、それへの対応策は改憲ではなく、内閣総辞職あるのみである。

東京新聞 4月8日

2018.04.02 Monday 16:18

エイプリルフール企画 没の作品

エイプリルフール企画には別の原稿も用意した。PCの中に眠らせていてももったいないので、ここで公開しておく。

ごめんなさい
 この1年、森友・加計の2つの問題で、権力の私物化という厳しい批判を受け続けてまいりました。正直なところ、仲の良い友人に対して便宜を提供することは構わないだろうと軽く考えていました。私は全能の権力者だと驕っていたのです。
 より大きな問題は、不正が発覚したのち、1年以上にわたって事実を隠蔽し、財務官僚による公文書改竄という未曽有の犯罪までも招き寄せたことです。昨年の今頃、森友学園に対する国有地払い下げの価格算定に不正があったことを正直に認めて、綱紀粛正を図っていれば、自殺者を出さずに済んだことでしょう。
 私の妻は籠池氏に騙されたと言いましたが、これも見苦しい言い訳でした。実は、森友学園の忠君愛国教育に私と妻は心より共鳴し、何とか小学校開設を応援したいと思っていました。もちろん、私が直接指示したわけではありません。洞察力に優れた官僚の皆さんが私の思いを察知し、籠池氏に様々な優遇を与えたのです。
 私が世界の現実から目を背けている間に、日本は世界の孤児になろうとしています。朝鮮半島の緊張緩和の動きからは置き去りにされ、盟友トランプ大統領からは高率関税をかけられる始末。この際、日本の国難を打開するために、私は総理の職を辞することを決意しました。国民の皆様、ごめんなさい。


恐るべき子供たち
文明が滅ぶとき、恐るべき子供たちが世の中にあふれるようになる。
子供の情景1
「兄ちゃんがジョンは悪い奴だというから僕もそう信じてきた。甘い顔を見せたら、奴はいくらでも付け上がって僕たちをやっつけるとみんなに言いふらしてきた。ジョンと隣り合う文太の家で雪合戦大会があった時も、僕は兄ちゃんの代わりに文太の家に行って、ジョンをやっつける喧嘩の練習をさぼるなよと脅かしてやったんだ。それを今になって、兄ちゃんとジョンが仲良く話し合いをするだって。おまけに、今まで兄貴に金をせびってきたのはもう許さないと脅かされた。こわいよー」
子供の情景2
「シンちゃんの友達だったら、テストの答案を出した後でも、間違いを消しゴムで消して書き直すことができていたって。先生もシンちゃんの友達を特別扱いしてたことが分かったんだ。」
「そんなバカな話はないよね。」
「やっかむんじゃないよ。クラス委員長のシンちゃんは偉いんだから絶対に間違うことはない。だからシンちゃんの仲良しも間違わないんだ。間違ってましたと謝るよりも、後でいろんな細工をして、委員長は絶対に間違わないという体裁を整えるのが美しい学級だ。口惜しかったら教育勅語を暗唱して、仲間に入れてもらえよ」

2018.04.02 Monday 16:16

愛国のススメ


 政府はこのたび、国民の愛国心をさらに涵養するために、愛国マイレージプランを実施することになりました。愛国心の大きさによって級、段位を獲得し、それに応じて特典が得られるというお得なプログラムです。
 靖国神社に10回参拝したら10級、教育勅語を暗唱できたら1級、産経新聞のコラムを1年間毎日ノートに書き写したら初段、百田尚樹氏の小説全作品を読破したら3段など、愛国心の度合いによって段位が認定されます。最高位は十段ですが、これは教育者向けで、百人以上の教え子に教育勅語を暗唱させることができれば、日本一の愛国者に認定されます。
 特典もいろいろです。10級は総理夫人との握手券、初段を取れば、試験の時に一度提出した答案を書き直すことが認められます。5段になると、外れ馬券を買っても、レースの後にその数字を勝ち馬の番号に書き直すことが認められます。十段の方には国有地をただで進呈します。
 今や愛国心を高めることは、他の人にはない特権を得るための早道です。この仕組み、今の政権が終わったらなくなると心配する方もいるかもしれません。大丈夫です。隣国の指導者に倣い、わが国でも総理の任期を無期限とする憲法改正を実現します。愛国心のある国民は賛成するはずです。

4月1日
東京新聞特報面恒例のエイプリルフール企画の原稿
紙面では固有名詞がぼかされたが、これがオリジナル

2018.03.27 Tuesday 17:20

汚れた手

 今日は自民党大会が開かれる。そこで、憲法改正の具体的な案を提示することになると各紙は報じている。9条に関しては、昨年の5月3日に安倍首相が打ち出した通り、9条の本体は残しつつ、自衛隊の明記を追加するという形に落ち着くと見られている。
 このニュースを見て、泥棒が刑法改正を提案するのと同じだと呆れるばかりである。憲法の第4章以降は、広い意味での国家権力の行使に関するルールブックである。73条は、内閣の職務の中でもいの一番に、「法律を誠実に執行し」と規定している。憲法を読み直して初めて気づいたのだが、第4章以降の条文はすべて無味乾燥な言葉で構成されている。前文を除けば、誠実にという心構えをあえて書き込んだ条文は73条くらいである。
 三権の中でも国民に最も大きな影響を与える行政権の担い手は、とりわけ、まじめに、正確に、公平に仕事をしなければならないという憲法の原理を、この文言は表現したものだと理解すべきだろう。
 文書改竄、国有地不当値引きをめぐる追及が厳しい中で、改憲を発議しようとするのはよほどの無神経か、疑惑隠しの策略か。安倍政権は1年前に疑惑が発覚して以来、法律違反を放置し、問題の解明を怠ってきた。この内閣はずっと憲法73条を踏みにじってきたのである。汚れた手で憲法に触るな。

東京新聞3月25日

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