2019.04.11 Thursday 17:38

政治における論争と政策課題


 通常国会の予算審議では、経済分野の統計のずさんさが最大争点となった。ことはかなり専門的なテーマであり、世論の関心も高まらなかったので、政府は野党の追及をかわして逃げ切った感がある。しかし、経済の実態を測定する物差し自体にゆがみがあったという疑惑は続いている。『日本経済新聞』の昨年11月13日朝刊に、「国内総生産(GDP)など基幹統計の信頼性に日銀が不信を募らせ、独自に算出しようと元データの提供を迫っている」という記事があった。今回問題になった賃金統計のずさんさについてはすでに日銀が疑義を呈していたのである。政治的圧力が働いたかどうかは知る術もないが、安倍晋三政権の長期化の中で、政権が掲げる目標が達成されたという数字を拾い集めるという「問題意識」が所管官庁にあったことは事実であろう。

 アベノミクスが成果を上げているかどうかを国会で議論しても、水掛け論になる。むしろ野党は、短期的な政策の成否について議論するよりも、安倍政権が放置している長期的、構造的な問題について論争を提起し、自らの選択肢を示すべきである。

 人口減少が進むことは止めようのない現実である。その原因の1つは、1970年代後半に生まれた団塊ジュニア世代が第3次ベビーブームを起こさなかったことである。なぜこの世代がそれほど子供をつくらなかったかといえば、大学を出た時が金融危機や非正規雇用の急増の時期に重なり、低賃金で働く労働者が増えたことによる。この世代には引きこもりになった人も多い。人口減少が加速したのは人災である。

 その団塊ジュニア世代も40代後半である。20年後この世代が退職する時、十分な年金を受給できず、生活保護に頼る人の数が増えることが予想されている。財政、社会保障の破綻を防ぐために、この世代を社会に包摂し、稼ぎ、納税できるようにすることは時間との競争である。

 日本はいつまで巨額の国債を発行し続けられるのか、論争がある。経済学の常識に照らせば、国際収支の黒字が続く間は大丈夫ということになる。しかし、貿易収支は昨年後半から赤字基調で、今年1月だけでも1兆4千億円の赤字だった。投資収益があるから貿易赤字はカバーできるという議論もあるのだろうが、アメリカでバブルがはじけたらそれも終わりである。

 経済同友会代表幹事の小林正喜氏は、1月30日の『朝日新聞』のインタビューで、アベノミクスについて「この6年間の時間稼ぎのうちに、なにか独創的な技術や産業を生み出すことが目的だったのに顕著な結果が出ていない。ここに本質的な問題があります」と指摘している。まさに頂門の一針である。今、日本の貿易黒字は自動車が稼ぎ出しているが、これから電気自動車や自動運転の開発をめぐる大きな競争に立ち遅れれば、いよいよ稼ぐ産業はなくなる。そうなると、日本は国債消化を外資に頼る途上国型の財政に転落する。

 安倍政権の原発推進政策も、長期的な思慮を欠いた、電力会社を今だけ助けるものである。福島第一原発事故の処理費用について、政府は約22兆円と見積もっているが、民間シンクタンクは最大80兆円余りという試算を発表した。被害者の救済や放射能汚染の除去にまじめに取り組めば、1年分の国家予算に匹敵する費用がかかるのだろう。また、世界では化石燃料と原発という20世紀モデルから再生可能エネルギーに向けた大きな革命が起こっている。安倍政権の発想は、1960年に石炭を守れと主張して勝ち目のない戦いを挑んだ三井三池炭鉱労組と同じようなものである。

 要するに、アベノミクスで景気が良くなったか否かという議論は、日本が直面する巨大な課題とは無関係な、些末な議論である。この通常国会は参議院選挙前ということもあり、与野党対決の重要法案は提出されていない。予算は3月中に自然成立するのであり、国会議員には時間がたっぷりあるだろう。

 3月12日の『朝日新聞』朝刊に、こんな記事があった。
「野党4党が国会に提出した「原発ゼロ基本法案」が一度も審議されないまま、丸1年を迎えた。4月の統一地方選、今夏の参院選を前に、「脱原発」の争点化を避けたい与党が審議入りを拒み続けている。」

 原発をベースロード電源にするという政策について政府与党が確信を持っているのなら、原発ゼロを主張する野党と国会の場で議論すればよいではないか。議員立法については提案者が答弁席に立つ。日頃野党に攻められるばかりで鬱憤がたまっている与党議員にとっては、野党を責め立てる良い機会である。そうした機会を放棄して、数の力を頼んで議論自体を封じ込めるのは、議会政治の否定である。

 昨年秋に総裁選挙をしたばかりだというのに、自民党内では安倍総裁の4選もありうるという議論が飛び出した。権謀術数の中の観測気球だろうが、与党の政治家というのはこの種の権力闘争をするしか能がないのかと呆れる。

 政策論争の欠如に関しては、野党も自らの役割を見失っている感がある。参院選における1人区の候補者一本化についてはようやく合意ができた。しかし、野党が協力することで安倍政治をどのような意味で否定し、日本の経済と社会をどのように造り変えるか、具体的な議論はまだ見えてこない。国民民主党と自由党の合同の話も、国会審議で与党と妥協しがちな国民民主党に自由党の戦闘意欲を吹き込むのであれば意味があると思う。しかし、原発を始めとして国民民主党があいまいにしている政策についてもエッジを立てなければ、合同の意味はない。国会の内外で、野党こそ日本の現状に危機感を持ち、自らの構想を発信してほしい。

週刊東洋経済 3月30日号

2019.04.11 Thursday 17:35

戦いは続く


 本紙の望月衣塑子記者と新聞労連委員長の南彰氏が著した『安倍政治100のファクトチェック』(集英社新書)を読むと、安倍政権の下でどれだけの虚偽、捏造、犯罪的行為が横行してきたか、改めて教えられる。日ごろ政治を観察している私でさえ、2、3年前のことについては記憶が薄れてしまう。でたらめの日常化こそ、安倍政治の権力維持のための高等戦略である。
 権力者の嘘に慣らされてはならない。権力者による沖縄の人々や原発事故被災者に対するいじめや冷酷非情な仕打ちに対する憤りを絶やしてはならない。すべての人の尊厳と権利が保障される社会を実現することをあきらめてはならない。憲法12条で言う通り、自由や権利は我々自身の不断の努力によって保持しなければならないのである。
 12年に及ぶ私のコラムも、今回が最後となった。途中、己の言説の無力さに意気阻喪することもしばしばあったが、読者の皆さんの励ましのおかげで今日まで書き続けることができた。心よりお礼申し上げたい。
 筆を置くに当たって、今の政治の劣化状況がとめどなく続きそうなことは心残りである。しかし、民主主義を求める戦いは永久運動である。これからも様々な機会で、いろいろな方法を通して、読者の皆さんとこの戦いを続けていきたいと念願している。

東京新聞3月31日

2019.04.11 Thursday 17:34

衰えを知る


 イチローという選手の躍動を見続けてこられたのは、この時代の野球ファンにとっての幸せだった。しかし、この超人も年には勝てない。思ったように球を打ち返せないことへのいら立ちや焦りもあったのではないかと想像するが、実に淡々とした引き際だった。いかにもイチローらしいと感心した。
 個人でも、国という単位でも、自分自身を正確に認識することは難しい。特に、過去に栄光の時代を経験し、誇らしい思いをした人ほど、過去の残像にしがみつくものである。日本というまとまりで振り返れば、人口減少時代に入り、経済成長をけん引した産業の多くも消えていった。残念ながら、衰弱の局面である。もちろん、国が廃業するわけにはいかないので、課題を乗り越え、後世に文明を引き継がなければならない。
 そのためにも的確な自己認識が必要である。折しも、現役の厚労省官僚がソウルで泥酔し、暴言を吐くという情けない事件が起こった。エリートにあるまじき愚行である。
衰退の入り口で、現実を否認して夜郎自大の国民になるのか、現状を受け入れて成熟、賢慮を発揮する国民になるのか、今は分かれ道である。日本人が、他者を見下すことによってしか自分の存在意義を見つけられないような、情けない国民になってはならない。

3月24日

2019.04.11 Thursday 17:33

生命の尊さ


 人工透析を打ち切った患者が死亡した事件を機に、人間の生命の尊さについて考えなければならない。この事件は偶発的なものではなく、生命を軽んじる風潮の現れだと思える。
ある雑誌の新年号で、若手の評論家が、死の1か月前に医療をやめれば医療費が大幅に削減できると発言し物議をかもした。少し前には、維新から衆議院選挙に出馬した人物が、人工透析患者は自業自得なので、費用は全額自己負担にせよと発言し、批判を浴びた。前者は無知、後者は確信犯という違いがあるように思えるが、支払い能力によって命の長さに差ができることを当然と考えていることは共通している。
今月初め、日本産科婦人科学会は、出生前診断の手続きを簡易化する方針を打ち出した。もしこれが普及すれば、子供が障害を持って生まれたことは親の自己責任という感覚が一般化する恐れがある。そうなると社会福祉は大きく後退する。
 救うべき命と救わなくてもよい命が区別できるという議論を始めたら、個人の尊厳、平等という近代社会の根本原理は崩壊する。生きるに値する人と値しない人をどう識別するのか。それが可能だと言い出せば、生きるに値しない人間を大量にガス室で抹殺したナチスの思想に限りなく近づいていく。我々は正気を保たなければならない。

東京新聞3月17日

2019.04.11 Thursday 17:32

あれから8年


 また311が来る。記録改ざん、データ捏造が横行する安倍政治の下では、過去の教訓に学べと叫んでも空しいばかりである。しかし、過去の失敗を無視して、原発をベースロード電源と位置づけ、再稼働に狂奔する安倍政権の政策は、亡国への道だと言い続けるしかない。
 エネルギー転換といえば、1960年代に石炭から石油へという大転換が起こった。その過程で、福岡県の三池炭鉱の労働者は人員整理に反対し、戦後最大の争議を起こした。当時真剣に戦った人々には申し訳ないが、これは時代の流れに逆らう無謀な戦いで、敗北を運命づけられていた。階級闘争のイデオロギーではエネルギー転換に勝てなかった。
 いま、あの時の労働組合と同じことを政府が行っている。階級闘争のイデオロギーに代わって、原発産業に絡む利権を守りたいという欲望に駆られた官僚、経営者、政治家が時代の流れを無視して、高コストの原発にしがみついている。
炭鉱閉山の時と違って権力の側が時代に背を向けて亡国の道を走る時、それを止めるのは民主主義の仕組みと市民のエネルギーしかない。あれだけの事故を起こしながら何も変わらなかった日本の記録が百年後の博物館に陳列され、嘲笑されるのは耐え難い。今を生きている日本人の知力と意志が問われている。

東京新聞3月10日

2019.04.11 Thursday 17:31

沖縄の民主主義


 沖縄県民投票では、辺野古基地建設に対する圧倒的な反対の意思が表明された。これに対して、安倍政権とその意を体した全国メディアは、この民意を矮小化するために見苦しい努力を払っている。
 NHKやいくつかの新聞は、住民投票の結果についてなぜか突然絶対得票率を使って反対派が県民全体の中での少数派であることを浮き彫りにしようとした。最低投票率が規定されていない選挙では、棄権者はカウントしないのがルールである。全有権者中の一部の意思だなどと言い出したら、安倍政権だって正統性がないことになる。
 岩屋防衛大臣は、沖縄には沖縄の、国には国の民主主義があり、辺野古基地建設は進めると述べた。選挙で勝利した安倍政権が進めている政策だからといって、民主主義の仕組みを経たと胸を張って言えるのか。行政不服審査を使って県知事の埋め立て許可撤回を無効にするという姑息な手を使い、技術的な可能性、予算の膨張など当然の疑問に対しても何ら説明はないままである。
 建設賛成の人も含めて過半数の沖縄県民が投票に参加して県民投票に正統性を与えたことは、沖縄県民が民主主義を大事にしていることの現れである。国政の指導者は、真摯に受け止めると虚言を並べるだけで、民主主義を蔑視している。

東京新聞 3月3日

2019.02.22 Friday 19:00

支持率の怪


 通常国会では予算委員会の論戦が始まり、毎日、安倍政権の失態がこれでもかと明るみに出ている。野党議員との論戦における安倍首相の逆切れ、はぐらかしを見ていると、こんな人物が我が国の最高指導者を務めていることに、絶望的な気分になる。
 しかし、一連の不祥事は政権に対する信頼を低下させているわけではない。2月のNHKの世論調査では、内閣支持率は微増して、44%となった。NHKといえども世論調査のデータ捏造はしないだろう。我々はこの現実を受け入れなければならない。個々の政策問題については、安倍政権のやり方を是認する声が多数派というわけではない。景気回復を実感せず、行政の不正に怒る普通の人が、それでもこの政権を支持するのはなぜか。
 内閣府が毎年行っている社会意識調査を見ると、2011、12年あたりを境に、日本社会の現状に対する満足感は高まり、中国や韓国に対する親近感は低下し、財政や格差に対する危機感は低下していることがわかる。この変化の原因についてはさらに考察が必要だが、民意の変化が先にあって、安倍政権は後からその現状肯定的な民意にサーフィンしているというのが今のところの仮説である。
 厳しい現実から目を背け、根拠のない多幸感に逃げ込む民意に迫ることが、政治転換の鍵となる。

東京新聞2月17日

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